地域で出る廃プラを地域で循環させる仕組み
● 取り組み内容を具体的に教えてください。
愛媛県愛南町の愛南漁業協同組合と協働し、当社のプラスチック再資源化装置「e-PEPシステム」を導入。漁業で排出する発泡スチロール製ブイ(フロート)などの廃プラを減容・圧縮。さらにペレット化してクリーンエネルギーに再生し愛南町で活用する取り組みです。地域の基幹産業で出る廃プラを地域のエネルギー減として有効利用することで、サステナブルな産業・地域を目指しています。
●取り組みにつながったきっかけを教えてください。
当社は「地球と人間環境改善から未来をつくる」という事業方針のもと、圧縮・減容機械などの開発、エネルギー事業を展開しています。その一環で、海洋環境、生活環境に影響を与えている日本沿岸に漂着するプラスチックと、海洋への流出原因となる企業活動よって排出される産業プラスチック、2つの発生元で両方を有効利用することで海洋汚染防止を目指す「クリーンオーシャンプロジェクト2050」を2007年にスタートしました。
■クリーンオーシャンプロジェクト2050
プロジェクトでは全国各地の漁協などで10年間にわたり実証実験を行い、フロートを1/10に、さらにそれをペレット化し1/40まで圧縮する技術を確立しました。
さらに、そのペレットを燃料に温水と蒸気のクリーンエネルギーを作り出す技術を開発。「粉砕・圧縮➡ペレット化➡クリーンエネルギー化」の一連のシステムが「e-PEPシステム」です。
■e-PEPシステム
●愛南漁協の課題は何でしたか?
愛南町は漁業を基幹産業とする町です。愛南漁協は豊かな養殖海場をもち、養殖真鯛は全国生産量の約20%を占め日本一。しかし、年間約8000個排出されるフロートの処理が課題となっていました。以前は地域外で大型集中回収して処理していましたが、高い処理費用が漁業者の負担になり持続性が難しい状況でした。
愛南漁協と生産者は豊かな海と愛南町の産業を未来へつなぎたいという思いが非常に強く、持続可能な養殖業の実現のために、このフロートを何とかして循環をつくらないといけないという強い意識を持っていました。
また、国内大手企業や海外との取引も増えてきて、SDGsの観点からも、サプライチェーンとして環境への取り組みが求められていました。
廃プラの価値を最大化しクリーンエネルギーに再生
●取り組みに至るプロセスを教えてください。
愛南漁協の廃プラの課題を解決することに加え、廃プラの価値を最大化するために「e-PEPシステム」導入を提案しました。廃プラを圧縮・減容するだけでなく、ペレット化して、それを燃料にクリーンエネルギーに再生、町で利用してもらうことで、漁業から出る廃プラの価値を最大化する仕組みです。
現在は漁協で粉砕・圧縮➡ペレット化まで行っており、今後はこれを燃料にクリーンエネルギーをつくり、町で活用する予定です。
●廃プラから生産するクリーンエネルギーをどのように活用する計画ですか?
愛南町と漁協が共同で運営する海洋資源開発センターでは、アコヤ貝の稚貝の種生産を行っています。冬期に水槽を温めるために化石燃料によるボイラーと、電気による暖房を使用していますが、エネルギーコストが上がっており町の財政に影響を及ぼしています。
そこで「e-PEPシステム」でつくったクリーンエネルギーを代替活用・補填することでエネルギーコストを削減することに取り組んでいこうとしています。
それにより次のような効果が期待されます。
・約8000個のフロートからつくるクリーンエネルギーで町のエネルギーを補填
・海洋資源開発センターの電気代約500万円/年の削減
・外部委託していた廃プラの処分費用の削減(約1200万円試算)
■自社で出るプラごみをエネルギー化(イメージ)
●「分ける・戻す」ことにおいてどんな特徴・メリットがありますか?
海洋プラスチックごみは、異物や汚れがついていること、また単一素材ではないことからマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルするのが難しい。それに比べサーマルリサイクルでは洗浄・分別の手間が軽減されることです。「e-PEPシステム」ではフロートのポリスチレン、黒いブイの素材であるポリエチレン、ポリプロピレンもOK。多少の汚れや混合素材でも燃料として利用できます。
「戻す」に関しては、海洋プラスチックごみを燃焼することで炭酸ガスと水に分解されるクリーンエネルギーであること。また、装置自体がコンパクトなので導入しやすく、地域内に循環ループができるので、温室効果ガス発生の抑制効果もあります。
■e-PEPシステムのイノベーション 期待される効果
漁業者自らが課題解決に取り組んだことが町を巻き込む
●取り組みがうまく進んだポイントは何だと思いますか?
愛南の生産者さん、漁協の皆さんが、豊かな海と愛南町の基幹産業を守り、未来へつなぎたいという意識がとても高かったことだと思います。
ネガティブな存在だった廃プラを、その出し手である漁業者自身が課題解決に乗り出し、町で使うエネルギーへと有効活用する。愛南町の産業と町を持続させる取り組みとして町をも巻き込むことができました。
●取り組みによる副次的な効果はありますか?
愛南漁協・愛南町と私たちは今回の取り組みからさらに発展し、今後は旅行会社とも連携し、愛南町へのSDGs環境教育ツアーを実施することを計画中です。町ぐるみのリサイクルの取り組みが、県外から人を呼び込む資源になることを期待しています。
また、欧米など海外の取引先にも非常に高く評価されているようで、今後、取引が拡大することも期待できます。
ネガティブな廃プラをプラスに変換する発想
●このような取り組みを他の自治体や団体が真似したいと考えた時、「こうすればうまくいくよ!」というアドバイスはありますか?
愛南漁協の取り組みは、廃プラというネガティブなものをエネルギーというプラスの存在に変換する試みです。真似するとすれば、すでにあるネガティブなものをそれぞれの基幹産業と合体させる発想をしてみてはいかがでしょうか。
エネルギーはどんな産業・地域にも不可欠です。エネルギーコストが高騰している今、廃プラを最大限に有効活用しようと考え、基幹産業とくっつける発想は、漁業だけでなく、農業などさまざまな産業にも生かせるモデルだと思います。
お話:株式会社エルコム 代表取締役社長 相馬嵩央さん