マイクロプラスチック
削減のために。
「マイクロプラスチック」の
発生抑制・流出抑制に向けて
海洋プラスチックごみの中でも「マイクロプラスチック」と呼ばれる5mm未満の微細なプラスチックごみについて、近年、海洋生態系への影響が懸念されています。
マイクロプラスチックはいろいろなプラスチック製品から発生しているといわれており、人工芝(敷物、マット等に使われるパネル型の人工緑化製品を含む)や衣料品等に使用されている合成繊維もその発生源の一つとされています。
マイクロプラスチックの発生抑制・流出抑制に向け、できることから取り組んでいきましょう。
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人工芝と
マイクロプラスチック -
衣料品と
マイクロプラスチック
ARTIFICAL GRASS & MICROPLASTICS 「人工芝」とマイクロプラスチック
スポーツ施設や学校、家のベランダ等、私たちの生活の身近にある人工芝。
人工芝は経年劣化等によりプラスチックの芝が折れたり抜け落ち、そのプラスチックの破片や敷き詰められた充填剤(5mm未満のものはマイクロプラスチックとも呼ばれます)は、雨や風により河川等を通じ、海へ流出してしまう恐れがあります。
しかし、こまめな清掃や定期的な交換等、適切に管理することでその流出を抑制することができます。
〈 取組事例紹介 〉
CASE STUDY A
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CASE STUDY 1 ~マイクロプラスチック発生を低減するスポーツ人工芝の開発に取り組む~
住友ゴム工業株式会社人工芝によるマイクロプラスチックの削減に関する
取組についてお聞かせください当社は、1983年よりテニスコートなどに向けた砂入り人工芝、2000年からはサッカー場などに向けたロングパイル人工芝を発売しており、全国で数多くのスポーツ人工芝を導入していただいております。
当社によるマイクロプラスチック削減の取組は、大きく2つになります。
1つは、製品自体の耐久性を高めて高寿命化することで、人工芝由来のマイクロプラスチック発生を低減する活動です。具体的には、人工芝の素材である糸(ヤーン)に厚みを持たせたり、配合や形状、製法を改良する事で耐久性を高めるような開発をしています。また、夏は地球温暖化の影響による熱中症の問題もあるため、糸(ヤーン)に温度抑制機能を持たせる等、夏場では人工芝の温度が高くならないような開発にも取り組んでいます。もう1つは、人工芝で発生するマイクロプラスチックの流出抑制に向けた設備・資材の開発と実証実験、そして情報発信です。どうすれば施設からのマイクロプラスチック流出を抑制できるか、自治体やスポーツ施設の管理者のご協力を得ながら開発に取り組んでいます。また、当社も会員となっている公益財団法人日本スポーツ施設協会の屋外施設部会では、会員企業とも協力して調査研究をおこない、「人工芝グラウンドにおけるマイクロプラスチック流出抑制に関するガイドライン」の作成にも参画しています。
マイクロプラスチックの削減に関する活動に取り組もうと思った
きっかけや経緯をお聞かせください地球環境保全活動を推進する一般社団法人/株式会社ピリカが、2019年に日本の河川・港湾・湖に浮遊するマイクロプラスチックの実態を調査し、採取されたマイクプラスチックのうちの14%が「人工芝」由来であると公表しました。(翌年調査では約20%)《注》。この結果を受けて、当社も人工芝のメーカーとして調査研究が必要であると考えました。
2020年からは、当社はピリカと連携した調査を開始し、人工芝からのマイクロプラスチック流出の現状確認と問題解決に取り組んでいます。
《注》一般社団法人/株式会社ピリカ「日本の河川・港湾・湖におけるマイクロプラスチック浮遊状況調査」及び「人工芝の流出源調査」レポート。今後の取組についてお聞かせください
スポーツ人工芝の製品については、より耐久性が高く、使いやすい資材を開発することで、ユーザーのみなさまが安心して使っていただけるような製品を提供したいと考えています。
ロングパイル人工芝については、兵庫県西宮市と連携し、2021年から西宮浜多目的人工芝グラウンドで実証実験に取り組んでいます。また2022年からは、東京都多摩市と連携して砂入り人工芝(テニスコート)の実証実験も開始しました。
こうした実証実験を通じて、人工芝の経年変化を定期的に観察し、各流出抑制策の効果や資材の耐久性、メンテナンスの必要性などを検証することで、マイクロプラスチック流出の問題解決に取り組んでいるところです。多摩市との連携による実証実験では、排水溝内に専用フィルターを設置したり、排水溝の表面や外周にカバー材を設置する事で、マイクロプラスチックの流出抑制策を検証中。(写真:多摩市ホームページ)これから人工芝の導入を考えている自治体や事業者、すでに導入している施設の管理者、スポーツをしている一般のみなさま、さまざまな方に現状と課題を知っていただき、マイクロプラスチック削減の対策を一緒に考え、実行していきたいと思っています。
みなさまのご協力をいただいて、スポーツ人工芝からマイクロプラスチックを出さない取組が進むよう、これからも「つくる責任」を果たしていきたいと考えています。 -
CASE STUDY 2 ~様々な団体や企業と連携してプラスチック削減の啓発に取り組む~
日本プラスチック工業連盟プラスチックの削減に資する
貴社の取り組みについてお聞かせください日本プラスチック工業連盟は、原材料や加工等、プラスチック工業に関わる幅広い業種の団体や企業が加盟しており、45団体と79企業、合計124会員で構成されています(2024年1月1日時点)。
当連盟では、プラスチック業界に求められている重要課題の解決、プラスチックに関する正確な情報発信等、プラスチック工業の発展と社会貢献に寄与することを目的とした活動をしており、プラスチックペレットの漏出防止を目的としたリーフレットの作成、また海洋プラスチック問題に関する活動として講演会やセミナーを実施してきました。
また当連盟は世界的なペレット漏出防止活動である「Operation Clean Sweep®」(OCS)に参加しており、独自の活動として「海洋プラスチック問題解決に向けた宣言活動」を推進するとともに、宣言した企業・団体名や優れた取組を公表しています。プラスチックの削減に資する活動に取り組もうと思われた
きっかけや経緯をお聞かせください1991年に環境NGOである一般社団法人JEANから、全国の海岸や河川敷で樹脂ペレットを確認したという連絡をいただいたことがきっかけでした。樹脂ペレットの漏出という問題に対して、業界団体として取り組まなければいけないと考えました。
翌1992年から業界向けに漏出防止マニュアルやポスター、小冊子等、啓発ツールの作成を開始し、2011年には世界的なペレット漏出防止活動であるOCSへの参加を宣言しています。2016年からは樹脂ペレットだけでなく、プラスチック製品全体を対象として、リーフレット作成や講演会、セミナー等の啓発活動に取り組んでいます。
社会向けの活動としては、環境NGOの支援活動やアカデミアとの協働による発生源対策、マイクロプラスチックの生成機構の解明等にも取り組んでいます。人工芝関連で取り組まれている活動についてお聞かせください
当連盟が事務局となり、株式会社ピリカ、射出成型人工芝メーカー4社(株式会社テラモト、ミヅシマ工業株式会社、山崎産業株式会社、ワタナベ工業株式会社)をメンバーとした人工芝のマイクロプラスチック化防止対策検討会を開催し、現状の把握、防止対策の検討に取り組んでいます。
河川や海外にマイクロプラスチックが流出する原因として、人工芝がマイクロプラスチック化することが知られておらず、耐用年数を過ぎた製品が使用されていたり、不適切な使用等をされているのではないかと考え、人工芝メーカー4社の取扱説明書にマイクロプラスチック流出注意の喚起文を掲載し、発生源対策とすることにしました。
その他、人工芝製品の耐久性向上、環境省によるマイクロプラスチック流出防止リーフレット活用等について検討しています。今後の取組についてお聞かせください
環境省の作成によるリーフレットを活用し、正しい利用に関する広報活動を継続していく予定です。
プラスチックは、耐久性が高い上に、成型や加工がしやすくリサイクルが可能といった特性を有しているため、資源循環やSDGs達成になくてはならない素材です。正しく理解し、賢く使っていただくことで、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。
身近に取り組める
マイクロプラスチックの発生・流出防止
マイクロプラスチックはいろいろなプラスチック製品から発生しているといわれており、私たちが普段使用している人工芝(敷物、マット等に使われるパネル型の人工緑化製品を含む)や衣料品等に使用されている合成繊維もその発生源の一つとされています。
以下のリーフレットを参考に、マイクロプラスチックの発生抑制・流出抑制に向けて、身近にできることから取り組んでみてください。
CLOTHING & MICROPLASTICS 衣料品とマイクロプラスチック
私たちが普段使用している衣料品。衣料品の素材である合成繊維のくずは、実はプラスチックの一種です。
衣料品を洗濯することで発生した繊維くずは、マイクロプラスチックとして川や海へ流出してしまう恐れがあります。
一度環境中に流出したマイクロプラスチックを回収するのは非常に困難です。
洗濯ネットの使用や、洗濯フィルターのこまめな掃除など、ちょっとした工夫で流出を抑制することができます。
〈 取組事例紹介 〉
CASE STUDY B
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CASE STUDY 1 ~衣料品等による繊維屑の発生量を測定・分析し、抑制対策を検討~
日本化学繊維協会プラスチックの削減に資する貴社の取り組みについてお聞かせください
2019年に開催されたG20大阪サミットにおいて、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が合意されました。我々が携わる化繊産業は、リサイクル推進等により資源の有効利用を進めるとともに、繊維製品から発生する繊維屑(せんいくず)に起因する海洋中のマイクロプラスチック問題への対応が求められています。
日本化学繊維協会では、マイクロプラスチック問題への対応を重要課題として捉え、国内外の関係機関と連携しながら、調査研究や情報収集、情報発信といった活動に取り組んでいます。プラスチックの削減に資する活動に取り組もうと思われたきっかけや経緯をお聞かせください
2017年にヨーロッパの繊維業界の関係者と情報交換する中で、「マリンリッター(Marine Litter)」という言葉を耳にしました。「マリンリッター」とは、海洋中にあるプラスチックごみのことであり、当時からヨーロッパでは衣料品等から発生する繊維屑に対する取り組みを始めていました。
それ以降、当協会においても海洋プラスチックごみや繊維屑の問題について注視し、情報収集と対策を続けています。マイクロプラスチック問題で取り組まれている活動についてお聞かせください
(1)繊維製品の洗濯時に発生する繊維屑の測定方法の開発
繊維屑の発生については、当初から家庭の洗濯に由来することが問題視されていました。そこで科学的根拠の基となる正確なデータを収集するため、大学・関係機関や関連する業界団体等と連携し、2018年頃から洗濯時に発生する繊維屑の測定方法に開発に取り組みました。その結果、2023年5月にISO国際標準規格(ISO 4484-3)として発行することができ、世界各国で利用されています。(2)繊維製品の消費段階を含めた外部機関との対策検討
繊維屑に起因するマイクロプラスチック問題の対策は、衣料品等の製造段階から消費段階、家庭での洗濯や下水処理等、それぞれの段階で排出抑制を講じることが重要です。環境省の懇話会を始めとして、多様な業種の団体等との対話も積極的に進めています。(3)マイクロプラスチック問題に関する情報発信
前述の調査等を通じて得られた情報は、関係機関と連携してリーフレット等の形に取りまとめて発信しています。その他、当協会の会員企業が開発した、繊維屑の出にくい製品や海洋生分解性繊維等について、展示会等を通して広く紹介しています。
今後の取り組みについて、お聞かせください
前述の通り、国際標準化された繊維屑の測定方法を活用し、2023年度からは様々な繊維製品(衣料品、寝具、タオル等)の繊維屑発生量の調査を進めています。こうしたデータを蓄積することにより、今後繊維屑が出やすい製品の対策検討に役立てたいと考えています。
繊維屑は、洗濯時だけでなく、衣料品の着用時にも発生していることから、様々な場面を想定して繊維屑の発生メカニズムを解明することが必要です。大学等研究機関も含めて、今後こうした調査・研究が進むことが期待されます。マイクロプラスチックや繊維屑の発生防止策として、身近にできることがあれば教えてください
家庭においては、衣料品等に取り付けられている洗濯表示に合わせた正しい洗濯や洗濯ネットを正しく使うことで、繊維屑の流出をある程度防ぐことができると考えています。洗濯表示に従った適切な洗濯を心掛けることで、繊維屑の発生を抑制し、衣料品等の寿命も延ばすことができます。
洗濯機の備え付けフィルターのこまめな清掃と、捕集した繊維屑の正しい処分(水で流さない)も大切なポイントです。 -
CASE STUDY 2 ~多様な業種の企業等と連携し、マイクロプラスチック海洋汚染の削減に取り組む~
伊藤忠ファッションシステム株式会社プラスチックの削減に資する貴社の取り組みについてお聞かせください
マイクロプラスチックの流出源のひとつは、服から落ちた繊維屑(せんいくず)です。海中に存在するマイクロプラスチックの30%以上が繊維由来であると言われており、私たちが気づかない間に服を始めとする繊維製品が海を汚染しています。
そうした繊維由来の環境課題への解決策として、当社独自の繊維品質検査と認証、商品開発に取り組むプロジェクト「Less Micro Plastic Project(レス マイクロ プラスチック プロジェクト)」を立ち上げ、企業や団体と連携して活動しています。プラスチックの削減に資する活動に取り組もうと思われたきっかけや経緯をお聞かせください
2017年頃にアメリカの繊維業界ではフリースからの繊維屑(せんいくず)の排出が問題になっているという話を知人から聞きました。繊維の試験検査だけでなく業務の幅を広げたいと考えていましたので、いずれ日本でも同様の問題が起きるのではないかと考え、取り組みを始めようと考えました。
マイクロプラスチック問題で取り組まれている活動についてお聞かせください
「Less Micro Plastic Project」では、繊維による海洋汚染を減らすという目的に向け、連携する企業とともに以下のアプローチを実施しています。
(1)排出量の測定、可視化
まずは現状の把握をするため、対象となる繊維製品から脱落するマイクロプラスチックの排出量を測定します。一言で繊維製品と言っても幅が広いので繊維屑の脱落が多いフリースなどの起毛品を中心に特許を取得している独自の検査方法により、わかりやすく数値で可視化します。(2)削減目標の設定
一般に販売されている化学繊維製品から脱落する量を検査で可視化し、市場の平均値を算出します。対象となる繊維製品について、その平均値の50%削減を目標値として設定します。その後は段階的に削減することで、最終的に排出ゼロに近づくことを目指します。(3)目標をクリアできる製品開発
1社での開発には限界があるため、繊維商社を始め、多様な業種の企業や団体が手を携えて取り組む必要があります。当社ではプラットフォームを用意しているので、ぜひいろいろな企業や団体に参加していただきたいと考えています。「Less Micro Plastic Project」に取り組んでいる企業の評価をお聞かせください
SDGsに取り組みたいが、どこから始めてよいかわからない、という企業の声をよく聞きます。特に繊維業界は環境負荷が大きい業界と言われていることもあり、環境負荷の削減に取り組みたい、取り組まないといけないという気持ちを持っている企業は多いです。
「Less Micro Plastic Project」の活動は、50%削減という数値目標が明確であり、開発した製品による収益の一部をNPO法人に寄付する仕組みになっているため、CSR活動としても取り組みやすいという評価をいただいています。今後の取り組みについて、お聞かせください
ファッションの分野では、「おしゃれ」や「かっこいい」ことが製品を選ぶ基準であり、欧米に比べると環境負荷を考慮して製品が選ばれることが少ないと感じます。こうした購買行動のギャップを埋めるために、今後はプロジェクトに共感頂けるブランドとの連携やクリエイターの起用等、サステナブルとファッションが両立した製品の開発に力を入れていきたいと考えています。
またスポーツブランドやアウトドアブランド、デザイナーズブランドといったファッション業界はもちろんのこと、それ以外の業種や業界との連携も視野に入れています。特に水環境や生き物に関連した分野は「Less Micro Plastic Project」との親和性が高いと考えています。
1つは、水族館と連携した啓発活動です。水族館を活用したプロジェクトの紹介やイベント等を通じて、次世代を担う子ども達、衣料分野での消費の中心となっている親世代にマイクロプラスチック削減の大切さを伝える取組みを実現したいと考えています。
また異業種連携では、宅配水事業を通じて社会課題の解決を目指す株式会社ウォーターネット様と連携し、家庭や事業所に水を配達するスタッフのユニフォームや置き配バッグに認証素材を使用していただいています。
今後もさまざまな分野で協業する仲間を増やしながら、マイクロプラスチックの削減に寄与するプロジェクトを推進していきたいと思います。